をとっているが、神奈川県はどうなっているのか? 無許可営業で叱られるのかもしれない。
 サト子は、した手に出た。
「このあいだは、たいへんでしたね」
「新聞を見なかったかい? 空巣は、きのうの夕方、つかまったよ……野郎、また、あの辺の家へ入りやがったんだが、それが運のつきさ」
「空巣って、どの空巣?」
「春から、あのへんを荒していたやつだ」
「このあいだのひとじゃなかったのね」
「ホンモノのほうだ」
 中村も述懐していたが、あの青年は、やはり空巣ではなかったらしい。気持はいよいよ萎《しお》れてきて、こんなところに立っている気にもなれない。美術館のティ・ルームで息をつこうと、ひかれるようにそちらへ歩きだした。
「おい、君、君……」
 警官があとを追ってきた。
「どこへ行く?」
 どこまででもついてきそうなので、気味が悪くなって、サト子は池のみぎわで足をとめた。
 届出をしなかったのは手落ちだが、観光地の点景モデルといっても、アルバイトにすぎない。話せばわかる。
「美術館のティ・ルームで、お茶を飲もうと思って……ごいっしょに、といいたいところだけど、お誘いしちゃ悪いわね」
「美術館のティ・
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