ト子は、参道をブラブラしながら、外国人の観光客のカメラの使いかたを観察し、風景だけの風景よりも、日本人のはいった風景のほうを好むということを発見した。
 おなじ観光都市の鳥羽《とば》では、点景になる海女《あま》のモデル料は、五百円だと聞いている。サト子は、わが身の貫禄を考えあわせて、一時間、三百円ときめた。
 カメラを持ったお上りさんの青年たちは、モデルをつかって写真を撮《と》っている外国人を、ふしぎそうに見ているが、まもなく了解して、じぶんたちもやりだす。
 どんな仕事にもコツがあるように、このアルバイトにもコツがある。お嬢さんのような顔ですましていては、たれも寄りつかない。
 客引と、モデルのふた役という厚顔《あつかま》しいことを、勇気をだしてやってのけなくてはならない。
「神池の背景で、一枚、お撮りになりません?」
 反り橋の袂《たもと》と神楽殿《かぐらでん》の前で、思わせぶりなポーズをしながら行きつ戻りつしていたが、三時近くまで、いちども声がかからない。ポーズをして、立ってさえいれば、察しのいい白っぽい顔のひとたちが、
「おねがい、できますか」
 と相手になってくれるのだが、き
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