《に》の色と銀杏《いちょう》の葉の黄が、やわらかさをました日ざしのなかで、くっきりと浮きあげになっている。
秋だ。けさ着換えたウールの地が、しみじみするほど、よく膚につく。
サト子は、穿きかえの靴や、アクセサリーや、そういう小道具を入れた、モデルの仲間が化粧箱といっている大きな太鼓型のケースをさげ、参道の左手の低い石門を入ると、池のみぎわから建物の横手をまわって、入場券の売場へ行った。
近代美術館では、この月のはじめから古陶磁の展覧会をやっているが、それを見るためではない。化粧箱を預けたり、トイレットを借りたり、ティ・ルームでお茶を飲んだり……あっさりいえば、職場の休憩室といったぐあいに利用している。そういう用を便じるために、入場券だけは買う。
金網の間を通って、下足の預り所へ行く。預り所のおばさんが、化粧箱を受取りながら、お愛想をいってくれる。
「髪も、服も、変って、どこかの若奥さまみたい……さすがに、器用なもんだわ」
「これが、年相応というところなの……お世話になりましたわね。ここのアルバイトも、きょうでおしまい。そろそろ、東京の仕事がはじまりますから……」
最初の日、サ
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