ので、警察と聞くと、なんとなく、ぎっくりするらしい。
「おばさまには、関係のないことなの。あたしのお客さま」
 叔母は、ナイフで掃くようにトーストにうすくバターをなすりながら、いやな目つきでサト子のほうを見た。
「そんなことに、なるのだろうと思っていた……昨夜、あるところで聞いたんだけど、あなた、八幡さまの池のはたでポーズをして、百円とか二百円とか、モデル料をとるんだって?」
「百円、二百円ってことは、ございませんの。会の規定で、観光地の点景モデルは、一回、三百円と、きまっておりますから」
「金額はどうだっていいさ……だまし討ちみたいに、お上りさんの青年に写真をとらして、追いかけて行って、モデル料をとりあげるんだというじゃないの……鎌倉では、評判になっているのよ」
「料金をきめて、合意のうえではじめるんですから、だまし討ちということは、ございませんです」
「たれかを、太鼓橋のたもとへ追い詰めたというのは?」
「あれは、食い逃げだったの。防犯に協力する精神はよろしいと、警察にほめられました」
「バカな。警察が、そんなことをいうもんですか」
 叔母は、それで、ものを言わなくなった。
 サト
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