すと、背中のうしろに西洋枕を二つかって、もたれるようにしてやった。
「二十三貫……ぴったりでしょう? おばさま」
 叔母は、いやな顔をした。
「熱海で量ったら、二十貫、切れていた。もっとも、子供の乗る台バカリだったが」
「そういえば、お出かけになるときより、ずいぶん、すらっとなすったわ……熱い湯に、たびたびつかると、一時は、やせるといいますから」
「そういうね」
「おばさま、おやせになるために、温泉へいらしたというわけ? そうだったら、隅におけないわ」
「隅に置けないって、なんのこと?」
「ぜひとも、おやせになりたい目的が、おありになるの? あやしいわね」
「なにを言ってるんです、あなたは」
 叔母は、照れかくしに怒ったような声をだしたが、この見当ははずれなかったらしい。みょうなシナをしながら、サト子を打つまねをした。
「税務課、まだネバッている? 来れば、半日ぐらいは坐りこむやつなんだ」
 サト子には、叔母の気持がよくわかっている。
 この別荘と土地は、アメリカへ行ったお祖父さんの名で登記したままなので、叔母は、借家人だと言い張って、固定資産税の徴収を拒みつづけている。
「いま来たひ
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