がらサト子のいるほうへやってきた。
「坂田さん、しばらく……あたし、あなたにおわびしなければならないことがあるのよ」
 坂田は黒々と日に焼けた顔を反らせて、
「どんなことです? 私にわびることなんか、ないはずだが」
 三十二枚の歯をそっくりみせて、おおらかに笑うと、
「オプションをはじめる前に、苗木の谷の鉱業権を、一ドルで水上氏に売り付けられた当時のことを説明しないと、ひとをだますことになる……そうでなくても、あまり、よく思われていないんだから」
 由良ふみ子が冷淡に突っぱねた。
「あなたの言いたいことはわかっています。簡単にやってください」
「水上氏が三万カウントのサマルスキー石を持って、アメリカへ帰って来た。原子力委員会の裏付けがあったので、この石が苗木の谷から出たという確証があれば、一鉱区五万ドルで買ってもいいという買手がついた……」
 由良があとをひきとった。
「一鉱区、五万ドルとして、三百五十万ドル、十二億六千万円……ね?」
「七十鉱区だから、そういう計算になりましょう」
 由良がグイと背筋をたてた。あばれだすときの癖なので、なにを言うつもりなのかと、サト子は遠くから叔母の顔
前へ 次へ
全278ページ中271ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング