てこられた日、あるだけのハンガアにローブが掛かり、靴棚にぎっしりと靴が詰っているところを想像して、サト子は、あっけにとられた。
浴室は天井まで模造大理石を張りつめ、十人もいっしょにはいれるような薄緑の蛇紋石《じゃもんせき》の大きな浴槽のそばに、タオルのおおいをかけたスポンジの寝椅子が置いてある。湯上りに、ためしに寝ころがってみたら、厚いスポンジの層がサト子のからだをフンワリと受けとめ、宙に浮いているような安楽な状態にしてくれた。
「贅沢というのは、なるほど、こんなものなんだわ」
どんなひとが住んでいた家か知らない。外国の映画では、これによく似た夢のような場面をいくどか見たが、東京の山の手に現実にこんな生活をしていた人間がいたとは、貧乏で衰弱したサト子の頭では、どうしても納得しかねた。
次の日の朝、芳夫から電話がきた。
「いまの家、気に入りましたか」
「気に入ったなんて段じゃないわ、あまりすごいので、おろおろしているのよ」
「気に入ったら、買ったらどうです? 千万ぐらいで話がつくと思いますが」
サト子は三万ドルの紙幣のはいっている、空色の飛行鞄のほうへ振り返りながら、この家も、買
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