舌打ちをすると、どこかのキャバレの仕着せを着た運転手に声をかけた。
「うるさいな。あいつら、振り放してくれよ」
「よござんす。三宅坂あたりで振り落してやりまさア」
運転手が伝法な口調でこたえた。
四丁目の角を左折して、日比谷の交叉点を突っきると、猛烈な勢いで三宅坂をのぼった。台風気味の強い風が、追風になっているが、車体はフワリともしない。
山岸芳夫は足もとに置いたスーツ・ケースやボストン・バッグをふんづけて、シートに寝そべりながら
「もう、あんなに靄んじゃった」
と得意らしく、つぶやいた。
後の車は、そこで五十メートル以上もひきはなされ、トラックのうしろに小さくなっていた。
「いい調子でしょう? 五四年型のクラウン・インペリアル……気に入ったら、取っておきなさい。たった三百万円です」
「取っておくって?」
「ほしかったら、お買いなさいって、言っているんです」
期待はずれと失意の連続で、はかない気持になっていたところだったので、こんな男だと承知しながらも、芳夫の軽薄なものの言いかたが癇にさわった。
「冗談にしても、もうすこし身につくことを言ってちょうだい。そんな話、腹がたつだ
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