よかった……それは、いろいろなものから離れて、あなたがひとりになることだから……」
「でも、これからは、どうなるかわかりませんのよ。あぶないと思っても、飛びつかずにいられないような貧乏もあるものですから」
秋川は、いつもの思いの深い目つきになって、
「あなたは、貧乏どころか、たいへんなお金持なのかもしれません」
と宥《なだ》めるように言った。それがサト子の耳に、いかにもそらぞらしくひびいたので、すっかりやられて、ものを言う元気もなくなった。
愛一郎が、注意するように秋川にささやいた。
「パパ、神月さんがきましたよ」
サト子はぎょっとして、クロークのほうへ振り返った。
アメリカでは夜会服にもなっているグレーのジャケットに、タキシード用のトルウザース。襟にマリー・ゴールドの黄色い花をつけ、神月がゆっくりとこっちへ歩いてくる。
歳月の力も、神月には作用しえなかったのだとみえる。どう数えても五十六七になっているはずだが、小皺ひとつなく、髪も口髭も黒々とし、唇は血の色がすけて、少年のような無垢の美しさをたたえていた。
神月には三人の組合せが意外だったらしく、ひととき足をとめてこちら
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