神月では、どんな誤解をうけるか知れたものではない、他人の思惑《おもわく》など、すこしも気にしないで通してきたサト子だが、秋川だけには悪く思われたくない。へんな誤解でもうけたら、死んでも死にきれないような気がする。秋川や愛一郎の不審をとくためにも、そのへんの事情をはっきりさせておくほうがいいと思って、神月がやりかけているグラス・ファイバーの宣伝の仕事と、さっきモデル・クラブの事務所で聞いた、アメリカ・ビニロンのモデル募集の話をした。
 秋川は苦笑しながら、
「神月という男は、なんということもなく翼賛会の総務にまつりあげられたほか、仕事らしい仕事もせず、あの年になるまで、ノラクラと遊び暮していた徹底的な遊民なんですが、あの男に、そんなむずかしい仕事ができるのかな……それで、ビニロンのほうには、契約書のようなものがありましたか」
「日本文のと英文のと」
 秋川は煙草に火をつけ、沈思するおもむきで、長い煙をふきだしていたが、いつものつつしみを忘れたように、
「サインなすった?」
 と、だしぬけに強い調子でたずねた。
 おだやかすぎる秋川というひとに、こんなはげしいところがあるとは、思ってもいな
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