。おぼえていません」
「海軍にいるころは、軍艦にばかり乗っていて、一年にいくどというほどしか、帰って来なかったから、おぼえていらっしゃらないかもしれないが、中村君のほうでは、忘れられないわけがあるんです。そもそも、飯島に新婚の家庭を持つようになったのも、水上さんの周旋だったし、海軍が嫌になって退役してから、神奈川県の警察に勤めるまで、水上さんの助力で、長い失意の生活をささえていたような事情もあって、中村にとって水上さんは、古い言葉ですが、再生の恩人ともいえるようなひとだったんです」
「でも、中村さん、一言も、そんなこと、お話にならなかったわ」
「あのとおり、人づきは悪いですが、あれで心のキメのこまかい、親切な男です。あなたのことを親身《しんみ》に心配していました。あなた、ご両親がお亡くなりになって、荻窪の奥で一人で暮していられるんだそうで……それから、いまなすっていらっしゃる、ファッション・モデルのことなんかも……」
行く先々で待伏せをしたり、見当ちがいな忠告をしたり、みょうにうるさいひとだと思っていたが、これでいくらか謎はとけた。むかしのお祖父さんの関係で、その孫に厚意をしめそうと
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