っちへ契約したわ」
神月のほうはどういう話なのか、聞いていないからわからないが、契約書に書いてあるかぎりでは、一流のファッション・モデルより、はるかにいい条件になっているうえに、三万円の前渡しは、サト子にとっても、ちょっと抵抗できないような魅力があった。
天城は、手もとにとめていた英文タイプのほうを、押してよこしながら、
「サインなさるといいわ。前渡金《アドヴァンス》をお渡ししますから……英文のほうは、ローマ字で」
サト子は、なんということもなく、英文の契約書を手にとってみた。
サト子の女学校時代は、戦争も、とりわけひどい時期で、英語どころか、国語さえ満足に勉強をしたことがなかった。初年級のリーダー程度ならともかく、ぬきさしのならない商用英語で綴った契約書など、読めようわけはない。
サト子はあきらめて、ペンを借りてサインをしかけたが、そのとき、あなたは、これから、えらいやつに独力でたちむかうことになるといった、いつかの中村の言葉が、天の声のように耳のそばで鳴りひびいた。
つづいて、いままで思いだしたこともなかったある情景が、ふいに、こころにうかんだ。
この春ごろ、いつもの
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