ドル五十セントになって返ってくるというんです……水上さんの話は、シスコあたりの新聞にも、大きく出たそうですし、たかが一ドルのことだし、それに、軍票弗《ピンク》で買うと、五割の利子がついて、本国弗《グリーン》になって返ってくるというところが魅力なんで、大勢のなかには、五年がかりで貯めこんだ更生資金を、そっくりつぎこんだ、なんてのもいるんです」
コートのかくしから、小さく折りたたんだ二ページの邦字新聞をとりだして、
「これは、汎《パン》アメリカン航空のスチュワーデスが持って帰った『シアトル日報』ですが、こんな記事を見ると、やはり不安になって……」
サト子に渡しかけると、カオルは、二人の間に割りこんで、
「そんなものを、ひけらかしたって、どうにもなりはしなくってよ」
と言いながら、曽根の手にある新聞を、払うようにおしかえした。
「曽根さん、あなた、なにか見当ちがいしているようだけど、こんどのことについては、サト子さんは、なにも知らない……というより、まるっきり、なにも知らされていないんだから、そんなものを見せたって、途方に暮れるだけのことだわ」
曽根は手に新聞を持ったまま、怒りをひそ
前へ
次へ
全278ページ中179ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング