の七分コートを、ふかふかと着こんだ大矢シヅに傘をさしかけられ、沈んだ顔で、街路樹の下を歩いている。
「三百五十万ドルという、遺産を身につけていることも知らずに、あんなかっこうでパンスケと相合傘で歩いているというんだ……これが、世の中というものですか」
 しゃくったような言いかたが、癇にさわったらしい。由良は顔色をかえかけたが、笑顔《えがお》になって、芳夫のほうへ向きかえた。
「あたしより、あれのことをよくごぞんじだから、おたずねするのですが、サト子は、いま、どこにいます? へんな女と連れになって歩いていたけど、あれは、なにものなの?」
「飯島の大矢という漁師の娘で、横須賀で、みょうなショウバイをしていたのが、このごろファッション・モデルになりあがって、たいへんな羽振りだというんです……築地の『ヴェニス荘』というアパートに住んでいますが、サト子さんは、あの娘に養われているというのが実情らしい……どうかしましたか?」
「困るわね」
 芳夫の目が、意外な鋭さでキラリと光った。
「また、追いだす?」
 由良は、背筋を立てて芳夫の顔を見返した。
「なんて、言ったの?」
 芳夫は窓ぎわから離れると
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