やじに一任なすったのだから、行きつくアテがつくまで、だまって見ていてくださるほうがいいです」
階下のサロン・バアでは、調子を換えて、ドビュッシイの『沈める寺』を奏きだした。
由良は、窓ガラス越しに、目の下の通りを、だまってながめている。賢夫人の通性で、だまりこむと、腹のなかがわからなくなる。芳夫は煙草に火をつけると、そば目だてしながら、由良のようすをうかがっていたが、七五三の子供の兵隊によく似た、かぼそい口髭を撫でながら、そろそろと探りだしにかかった。
「なにを考えているんです? あなたが、そうしているときは、いちばん、こわいときなんだね?」
由良は、通りから目をはなさずに、つぶやいた。
「あなたのような、いい加減なひとのところへお嫁にいくサト子も、かわいそうなものだと、思っているとこなの……ほら、あそこを歩いている……いやだ、どうしたんだというんだろう。あんな、しょったれたコートを着て……」
芳夫が窓のそばへ立って行った。
葉を落しつくした街路樹の裸の枝々が、氷雨に濡れて、寒そうに光っている。着古した、玉ラシャのオーヴァ・コートに貧苦のやつれを見せたサト子が、豪勢なラクダ色
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