じまるので、あっけにとられてしまう」
 と、投げだすように言った。
「話には、順序というものがあるでしょう。アプレ式の会話っていうのかもしれないけど、わかるように話してくれなくちゃ、わかりゃしない……ここで、坂田となにをするって?」
「掛け合いをすると申しましたが、お聞きとりになれませんでしたか」
「あなたが、あの坂田と?」
 芳夫は顎《あご》をひいて、いんぎんにうなずいてみせた。由良は、相手になる気もなくなったふうで、
「聞きちがいでなけりゃ、結構だけど……掛け合いって、漫才のことですか」
 芳夫は、咽喉仏《のどぼとけ》を見せながら、はっはっと笑った。
「さすがは賢夫人だけのことはある。ウガったことをおっしゃいますね……そうですよ、漫才をやろうというんです」
「心細い話だわね……この夏、熱海の会談で、腹を立てて帰ったひとでしょう……あなたなんかの誘いだしに乗って、こんなところへやってくるとは思えないね」
「かならず来ます。坂田としては、来ずにいられないわけがあるんだから」
「そんなら、なおさらのことよ。あなたみたいなひとを、むけてよこすなんて、山岸さんも、どうかしているわ……それにし
前へ 次へ
全278ページ中136ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング