なことも、起りうるだろうということですよ。あなたはこれから、独力で、えらいやつに立ち向かうことになるんだが、見かけよりは、しっかりしているようだから、たぶん……うまく、やるでしょう」
「そんな謎みたいなことばかり言っていないで、わかるように話してください……愛一郎や秋川氏の話がでたけど、あのひとたちにも、関係のあることなんですか」
「もちろん」
「秋川夫人の古い恋文にも?」
中村は、キラリと目を光らせた。
「間接にはね……だが、そんな皮肉は言わないでおきなさい」
「ごめんなさい……すると、神月なんかにも?」
「ほかに、山岸弁護士の親子や、あなたのおばさんや……」
いきなりスターターがはいり、車が飛びあがるような勢いで走りだした。
「来たらしい」
木挽町の町幅いっぱいになっている車の流れから、エメラルド色のセダンが一台ぬけだし、十字路を左に折れて、新橋のほうへ走って行く。中村の車は、都電の線路を横切って後を追っていたが、汐留の長いコンクリートの塀のあたりで、並行して走りだした。むこうの運転席の脇窓と、こちらの車房の脇窓が並ぶ位置になると、中村は、いきなり座席に身を伏せた。
「むこう
前へ
次へ
全278ページ中132ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング