らないから」
 むずかしい話になりそうだ。思いきって、サト子は、こちらから切りだしてみた。
「あたし、あなたに文句があるのよ」
「文句が? 伺いましょう」
「秋川の家の庭で約束したわね。愛一郎を連れて、鎌倉署へ出かけて行くって」
「あのことですか……それで?」
「こちらから行くという約束を無視して、愛一郎を警察へひっぱって行ったのね?」
 中村は前窓《フロント》を見ながら、冷静な顔でこたえた。
「あいつ、秋川の家の下の道で、車をつっかけて、私を轢き殺そうとした」
「あなたに会って、のぼせあがって、ハンドルを切り損《そこな》った……なんてことも、考えられるわね」
「そのときの情況は、逆上したというようなものではなかったね……月夜で、視界のきく直線道路の上だったから、私が歩いていることは、たしかに見えていたはずなのだが、いきなり後から追っかぶさってきて、並木の幹で、おしつぶそうとした。私が道端の溝川《どぶかわ》へ飛びこまなかったら、とても助からなかったろう……悪意がないものなら、そのとき車をとめるべきだが、私が溝川へ落ちこんだのを見ながら、車を返して、谷戸《やと》の奥へ逃げて行った……ゆる
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