サト子は中村のとなりに掛けた。座席にヒーターが通っていて、ほんのりとあたたかい。
「雨が降りそうだから、日比谷公園はダメでしょう。泰西画廊へでも、行きますか」
 このひとはあとを尾《つ》けまわして、一日の行動を見ていた。それを隠そうともしないのだ。サト子は、つんとして、切口上でこたえた。
「ブラブラするのは、もう、やめましたの」
「どこへ、お送りしましょう」
「郵船ビルのレーバー・セクション(労務課)へ行って、メイドでもなんでも、やってみるつもりなの」
「へえ、メイドにね……それもいいが、川崎の鉱山調査研究所に、雇員の口があるよ……鉱山保安局にいる由良ってのは、あなたの叔父さんだろう。相談してみたらどうです」
「叔父や叔母の世話には、なりたくないの」
「そういうことなら、話はべつだが」
 中村は、車房のガラスの中仕切りをあけて、運転手になにかささやいた。三丁目のほうへ行くのだろうと思っていたら、反対に水上警察のほうへ走りだした。嫌な予感がして、サト子は、われともなく筒ぬけた声をだした。
「道がちがいはしないかしら?」
 中村は、笑って、
「大川端でもドライヴしましょう。たいして時間はと
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