が、こちらの気持を伝えてくれるような、うまい言葉がうかんでこない。書く気になって書きだせば、書簡紙の裏表に、十枚くらいギッシリと書きつめても、書きつくせないような深い思いがあるが、それでは、回りのおそいシヅの頭に、よけいな難儀をかけることになる。
(おシヅちゃん、ながいあいだお世話になりましたが、きょう、お別れしようと思うの。お話しするほうが、ほんとうだけど、それでは、後をひいてゴタゴタするでしょうから、手紙で……)
溜息をつきながら、そんなふうに書きだしたが、じぶんのしかけていることの嫌らしさに気がついて、手をとめた。
むかし、夏の鎌倉の海でいっしょに泳いだこともある、という関係でしかない大矢シヅに、ふた月ものあいだ、言いつくせぬ迷惑をかけておきながら、調子のちがう会話をするのが嫌さに、置き手紙をして、コッソリと逃げだそうとしている。
サト子は、手紙を丸めて屑籠におしこむと、シヅにお別れをいうために、部屋を出た。
シヅの部屋は、あいだに部屋を三つおいて、小田原町にむいた側にある。ノックをしてドアをあけると、シヅはネッカチーフで髪をキリッとまとめあげ、かいがいしくエプロンをかけ
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