でグッタリとつるさがっている。間代のカタに、持物をおさえられてしまったので、身につくものといえば、上と下が色のちがう古ぼけたセパレーツと、コートと化粧箱だけ。
 夏の終りに、秋川の家で受けた心のこもったもてなしのことを、フト思いだす。
「あの約束も、まだ果していない……」
 東京へ帰ったら、いちど秋川をたずねると、愛一郎と約束をしたが、こんなようすになりはてては、とても出かけて行く気にはなれない。みじめになって、心が傷つくだけのことだから。
 霧がうごき、上げ潮の黒い水の色があらわれだしてくる。ポンポン蒸気が、待っていたように、窓の下の掘割へあがってきた。
 しばらく怠けていたが、きょうからまた都会の雑踏のなかで、無慈悲な肱《ひじ》や拳《こぶし》で突きまくられながら、職安を回って仕事を捜して歩かなくてはならない。
「仕事が無かったら、今夜は、どこで寝るのかしら」
 秋ざれの寒むざむしい町のなかを、宿るあてもなく歩きまわるのは辛いことだが、友だちというのでもない大矢シヅの世話になっているより、よほどサッパリする。
 化粧箱から書簡紙と鉛筆をだすと、窓ぎわの机の前にすわって手紙を書きかけた
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