…ママの手紙は、神月が手もとにおいてあるらしい。ウラニウムの鉱山とかを買うので、その金を、パパに出してもらえるように、ぼくに骨を折ってくれって……」
「そう言って、脅かしているわけなのね。それは、いつごろの話なの?」
「夏のはじめごろの話……ぼくが、うんと言わないと、ママの手紙を、郵便でパパのところへ送りつけるというんだ」
小道をとざす萱をおし分けながら、中村が谷戸へはいってきた。水を浴びたように、服も靴も、ぐっしょりと濡れていた。ツカツカと愛一郎のそばへ行くと、ドスのきいた声で、中村が叱※[#「口+它」、第3水準1−14−88]《しった》した。
「おい、立て……立って、おれについて来い」
脇窓
霧が流れるたびに、勝鬨《かちどき》の可動橋の巨大な鉄骨の側面が、水に洗われるように見えたり隠れたりしている。霧が深いので、毎朝、アパートの窓下の掘割へあがってくるポンポン蒸汽は、きょうはお休みらしい。聖路加病院の鐘が鳴るたびに、運河からカモメが舞いたつ。
サト子は、窓ぎわの椅子に掛け、灰色の霧に白い筋をひきながら、舞いたち舞いおりるカモメの遊戯を、所在なくながめていたが、そのうち
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