に、そうしていることにも耐えられなくなり、椅子から立って、広くもないアパートの部屋のなかをウロウロと歩きまわった。
 つわものどもの夢のあと……もとは、連れこみ専門のホテルだったが、いまは「ヴェニス荘」という、女たちだけのアパートになっている。
 ベッド・カヴァーの色も、スタンドの笠の色も、なまぐさいほど、なまめかしい。いぜんは、花々しい朱だったのだろう。それが日にやけて、灰色になったベッドのそばの壁紙に、女の手蹟《て》でいろいろな落書がしてある。いまの代の主人が消そうとしたらしいが、彫るように鉛筆でニジリつけてあるので、文字のかたちが、はっきりと残っている。
(石のベンチは冷たい……木のベンチは湿っぽい……秋の逢引《あいび》き)
 詩のようなものを、三行にわけて書いている……こんなのもある。
(神さま、売れば売れるものを、ひとつ、カラダのなかに持っているというのは、なんという不幸なことでしょう)
 ここがまだホテルだったころ、そういう女のひとたちが、どんな思いでこれを書いたのだろう。落書の文字と文字のあいだから、やるせないためいきが漏れてくるような気がする。
「売れば、売れるものを…
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