かった。カオルは、手ぎわよく愛一郎をおさえつけながら、
「この間、神月の家へ行って、取っ組みあいみたいなことを、したんですって?」
「あっ、神月が言ったんだな」
「あなたが夢中になるのは、死んだママのことしかないんだから、なにがあったんだろうと思って、はいって調べてみたの……なぜ、あたしをママの部屋へ入れたがらないのか、その訳がわかったわ……あんなところに、ママの古い日記を隠してあるなんて、秋川氏も知らないことなのね?」
 愛一郎は、手をふり放して立ちあがると、カオルの肩のあたりを蹴りつけた。
「なんの権利があって、ひとが隠していることを、あばきだそうとするんだ?……おせっかいの、パンスケ」
 カオルは、愛一郎の手をとって、
「まあ、おすわんなさいよ。お話ししましょう」
「パンスケなんていわれて、腹をたてないのか」
「あたし、パンスケよ。あなたたちの聖家族のなかへは、はいれない女なの……ドイツへヴァイオリンの勉強に行っていたとき、戦争で日本から金が来なくなったので、生活費と月謝をかせぎだすために、手っとりばやいバイトをしていた時期があるのよ。あのころ、ベルリンにいた日本人は、みな知って
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