まで世話をしていたことにも、すこしずつ関係があるらしいふうだった。
ひとの知らない片隅で、ひっそりと生きていくことを理想にしている、貧しい平凡な娘をとり巻いて、このひとたちが、なんのために、いきりたったり、腹をたてたりしているのかわからない。
サト子にしても、どういうことなのか、知りたいと思わないわけはないが、このふた月ほどの間、あてもなくブラブラしているうちに、いぜんのような元気がなくなり、どんなことにでも、きっぱりとした決断をくだすことがむずかしくなった。
こうなるには、それだけのわけがある。夏の終りごろ、飯島の近くで、いい気になってチョコチョコしたばかりに、いうにいえぬ苦い経験をなめた。
二十四という、中途半端な年ごろの、娘の心のなかにある意想のすべては、どれもみな情緒たっぷりで、真実からほど遠いところで霞んでいる。ひとりで気負《きお》って、愛一郎という青年を庇いだてするような真似をしたが、現実は、サト子が考えているような、甘いだけのものでなかったことを知って、目がさめたようになった。
人生の端っこをのぞいたばかりなのに、なにもかも知りぬいているみたいに、いい気になって差し出るのは、やめたほうがよろしかろう。ひどくゴタゴタしているようだが、これだって、案外、愚にもつかぬことなのかも知れない。なにもわからないくせに、興奮することも、イライラすることもいらない。カオルや大矢シヅを向うにまわして、ぬきさしのならないところで問い詰めてやるのは、相当、精力のいる仕事なのだろう。ギリギリの最後になったら、それだって恐れはしないが、いまのところは、ものの意味が、ひとりでにわかりだしてくるのを、気長に待っているほうがいい。
サト子が、ぼんやりした顔をしているので、曽根は、おいおい険相な風情になって、
「ねえ、水上さん、だまっていないで、なんとかおっしゃっていただきたいわ」
というと、膝頭で、サト子の膝をグイとニジリつけた。
サト子は、そっと膝をよけながら、
「だから、わかるように、話してくださいと申しあげたでしょう? うかがっていますわ」
「ウィルソンが、一枚一ドルで、香港の宝彩のようなものをつくってきて、水上サト子の何億かの財産を安定させるには、先立って、坂田とかいうひとから、鉱業権を買戻すことになるのだが、ひと口、乗っておけば、一枚について、本国ドルで、一
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