うだけど、時代がちがうんだから、タワケたことはいいかげんによすほうがいいわね」
「あら、そんなものを持っているんですか。よく言っておいたんですが、バカだから……」
曽根は恐縮したみたいに、かたちだけのそぶりをして、
「そこにいらっしゃるのは、水上さんですね?……お話を伺えば、それですむことなのに、シヅが、妙につっぱるもんだから、こんなことになっちまって……」
と、やさしいくらいの調子でこたえた。
シヅが、どんな目にあわされるのだろうと心配していたが、相手がやさしく出て来たので、サト子は、うれしくなって、
「あたし、水上ですけど、話ですむのでしたら、どんなことでも」
曽根は、サト子と向きあう椅子に移ると、しんみりと話しこむ恰好になって、
「ごぞんじだろうと思いますが、話ってのは、ウラニウム籤のことなんです」
ウラニウムという言葉を聞くのは、これで三度目だが、正面切ってたずねられても、知らないことなので、返事のしようがなかった。
「わかるように、説明していただきたいわ。ウラニウム籤って、なんのことでしょう」
曽根は、探るような眼つきでサト子の顔をながめまわしてから、戸口にいる猪首の女に、命令するような調子で言った。
「水上さん、ごぞんじないそうよ。あんた、わかるように話してあげて」
猪首のが、りきみかえったようすで、どもり、どもり、言った。
「そこにいる水上さんとこへ、何億という財産がころげこんで……そうしたら、水上さんの叔母テキだの、山岸という弁護士だの、坂田とかいうアメリカくずれだの、それから、秋川という大金持だの、その息子だの、欲の皮のつっぱったやつらが、総がかりになって、ひったくりにかかったので、水上さんは切《せつ》なくなって、おシヅのところへ逃げこんできて、おシヅとウィルソンに、身柄は任せるからよろしくたのむと、委任状を渡したんだって……あたしの聞いたところじゃ、それが、ウラニウム籤のモトになる話なんです」
曽根は、目カドを皺めながら、
「水上さん、おわかりになったでしょう」
と言いながら、サト子の顔をのぞきこむようにした。
いま、じぶんを中心にして、目に見えぬ気流のようなものが渦を巻いているような感じがする。それは、愛一郎が飯島の久慈という家に忍びこんだことにも、叔母の熱海行きにも、山岸芳夫との結婚をおしつけられたことにも、大矢シヅが今日
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