不放逸を樂しみ放逸を畏るゝ出家は退轉するの理なし、彼は既に涅槃に近づけり。
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    第三 心の部

 三三 心は輕躁動轉し護り難く御し難し、智者は之を正しくす、猶ほ弓匠の箭に於けるが如し。
 三四 水の住處より取り出され、陸に投ぜられたる魚の如く、魔の支配を逃れんとして我等の心は戰慄す。
 三五 輕く止め難き、恣まゝなる心の調伏善い哉、調伏されたる心は樂を引く。
 三六 甚だ見難き、甚だ微細なる、恣まゝなる心を智者は護るべし、護られたる心は樂を引く。
 三七 遠く去り、獨り行き、身なき、密處に隱るゝ心を能く制御する人は魔の縛を脱《のが》る。

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密處―心臟のこと。
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 三八 心安住せず、正法を知らず、信心浮動すれば智圓滿せず。
 三九 心の貪著を離れ、思慮擾亂せず、已に罪福《よしあし》(の想)を離れ、覺悟せる人には怖畏あることなし。
 四〇 此の身は瓶の如しと觀、此の心を城の如く安住せしめ、慧の武器を以て魔と戰ひ、彼の捕虜を守り懈廢すること勿れ。

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瓶―身の危脆なるを譬へたるなり。
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 四一 嗟、此の身久しからずして地上に横たはらん、神識逝けば棄てられ、猶ほ無用の材の如けん。
 四二 怨が怨に對して爲し、敵が敵に對して爲す處は如何なりとも、邪に向ふ心の造る害惡に若くものなし。
 四三 母、父、また其他の親戚の爲す所は如何なりとも、正に向ふ心の造れる幸福に若くものなし。
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    第四 華の部

 四四 誰か此の地を征服す、(誰か)又此の閻魔界と天界とを征服す、誰か善説の寂靜への道を摘むこと猶ほ賢き人の華を(摘むが)如くする。

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此の地―人、餓鬼、畜生。
閻魔界―地獄。
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 四五 佛教を學ぶ人は(此の)地を征服す、又此の閻魔界と天界とを(征服す)、佛教を學ぶ人は善説の寂靜への道を摘むこと猶ほ賢き人の華を(摘むが)如くす。
 四六 此の身は水沫の如しと知り、陽炎の如しと覺る人は魔羅の華箭を壞り、死王を覩ることなし。

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魔羅の華箭―吾人の心を誘惑する諸の欲境に喩ふ。
死王―所謂閻魔王にして「死王を覩」とは死して地獄に墮つるを謂ふ。
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 四七 
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