憂へ、彼れ痛む、己の雜染の業を見て。
一六 現世に喜こび、死して後喜こび、福を造れる人は兩處に喜ぶ、彼れ歡こび、彼れ喜こぶ、己の清淨の業を見て。
一七 現世に惱み、死して後惱み、罪を造れる人は兩處に惱む、「我れ惡を造れり」と惟うて惱み、惡趣に墮ちて更に惱む。
一八 現世に慶こび、死して後慶こび、福を造れる人は兩處に慶こぶ、「我れ福を造れり」と惟うて慶こび、善趣に生じて更に慶こぶ。
一九 經文を誦むこと多しと雖も、此を行はざる放逸の人は、他人の牛を數ふる牧者の如く、宗教家の列に入らず。
二〇 經文を誦むこと少なしと雖も、法を遵行し、貪瞋癡を棄て、知識正當に、心全く解脱し、此世他世ともに執著することなき、彼は宗教家の列に入る。
[#改ページ]
第二 不放逸の部
二一 不放逸は不死に到り、放逸は死に到る、不放逸の者は死せず、放逸の者は死せるに同じ。
二二 明かに此の理を知りて善く不放逸なる人々は不放逸を歡こび、聖者の境界を樂しむ。
二三 彼等は靜慮し、堅忍し、常に勇猛に、聰慧にして無上安穩の涅槃を得。
二四 奮勵し、熟慮し、淨き作業を勉め、自ら制し、如法に生活し、不放逸なれば、其人の稱譽は増長す。
二五 奮勵により、不放逸により、制御により、又訓練により智者は暴流に漂蕩せられざる洲を作るべし。
[#ここから2字下げ]
洲―避難處又は歸依處の義。
[#ここで字下げ終わり]
二六 愚なる凡夫は放逸に耽る、智者は不放逸を護ること猶ほ珍財を護るが如くす。
二七 放逸に耽る勿れ、欲樂を習ふ勿れ、靜慮不放逸なる人は大なる樂を得。
二八 不放逸により放逸を却けたる識者は智慧の閣に昇り、憂なく、憂ある人を觀る、山上に居る人が平地の人を(觀るが)如く、泰然として愚者を觀る。
二九 逸放の中に在りて不放逸に、眠れる中に處して能く寤めたる賢人は駿馬の如く駑馬を後にして進む。
三〇 摩掲梵は不放逸によりて諸神の主となるを得たり、人咸な不放逸を稱贊す、放逸は常に非難せらる。
[#ここから2字下げ]
摩掲梵―寛仁の義にして因陀羅の一名。
[#ここで字下げ終わり]
三一 不放逸を樂しみ放逸を畏るゝ出家は行きつゝ粗細の結を燒く、猶ほ火の如し。
[#ここから2字下げ]
行きつゝ―世に生活しつゝの義。
結―煩惱の異名。
[#ここで字下げ終わり]
三二
前へ
次へ
全31ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
荻原 雲来 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング