られた寐臺《ねだい》が數脚《すうきやく》。其上《そのうへ》には青《あを》い病院服《びやうゐんふく》を着《き》て、昔風《むかしふう》に頭巾《づきん》を被《かぶ》つてゐる患者等《くわんじやら》が坐《すわ》つたり、寐《ね》たりして、是《これ》は皆《みんな》瘋癲患者《ふうてんくわんじや》なのである。患者《くわんじや》の數《すう》は五|人《にん》、其中《そのうち》にて一人丈《ひとりだけ》は身分《みぶん》のある者《もの》であるが他《た》は皆《みな》卑《いや》しい身分《みぶん》の者計《ものばか》り。戸口《とぐち》から第《だい》一の者《もの》は、瘠《や》せて脊《せ》の高《たか》い、栗色《くりいろ》に光《ひか》る鬚《ひげ》の、眼《め》を始終《しゞゆう》泣腫《なきは》らしてゐる發狂《はつきやう》の中風患者《ちゆうぶくわんじや》、頭《あたま》を支《さゝ》へて凝《ぢつ》と坐《すわ》つて、一つ所《ところ》を瞶《みつ》めながら、晝夜《ちうや》も別《わ》かず泣《な》き悲《かなし》んで、頭《あたま》を振《ふ》り太息《といき》を洩《もら》し、時《とき》には苦笑《にがわらひ》をしたりして。周邊《あたり》の話《はなし》には
前へ 次へ
全197ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
瀬沼 夏葉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング