うが、胸《むね》だらうが、手當放題《てあたりはうだい》に毆打《なぐ》らなければならぬものと信《しん》じてゐる、所謂《いはゆる》思慮《しりよ》の廻《ま》はらぬ人間《にんげん》。
玄關《げんくわん》の先《さき》は此《こ》の別室全體《べつしつぜんたい》を占《し》めてゐる廣《ひろ》い間《ま》、是《これ》が六|號室《がうしつ》である。淺黄色《あさぎいろ》のペンキ塗《ぬり》の壁《かべ》は汚《よご》れて、天井《てんじやう》は燻《くすぶ》つてゐる。冬《ふゆ》に暖爐《だんろ》が烟《けぶ》つて炭氣《たんき》に罩《こ》められたものと見《み》える。窓《まど》は内側《うちがは》から見惡《みにく》く鐵格子《てつがうし》を嵌《は》められ、床《ゆか》は白《しろ》ちやけて、そゝくれ立《だ》つてゐる。漬《つ》けた玉菜《たまな》や、ランプの燻《いぶり》や、南京蟲《なんきんむし》や、アンモニヤの臭《にほひ》が混《こん》じて、入《はひ》つた初《はじ》めの一|分時《ぷんじ》は、動物園《どうぶつゑん》にでも行《い》つたかのやうな感覺《かんかく》を惹起《ひきおこ》すので。
室内《しつない》には螺旋《ねぢ》で床《ゆか》に止《と》め
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