《あい》してゐた所《ところ》のマアシアは、此《こ》の節《せつ》は彼《かれ》が微笑《びせう》して頭《あたま》でも撫《な》でやうとすると、急《いそ》いで遁出《にげだ》す。郵便局長《いうびんきよくちやう》のミハイル、アウエリヤヌヰチは、彼《かれ》の所《ところ》に來《き》て、彼《かれ》の話《はなし》を聞《き》いてはゐるが、先《さき》のやうに其《そ》れは眞實《まつたく》ですとはもう云《い》はぬ。何《なん》となく心配《しんぱい》さうな顏《かほ》で、左樣々々《さやう/\》、々々《/\》、と、打濕《うちしめ》つて云《い》つてるかと思《おも》ふと、やれヴオツカを止《よ》せの、麥酒《ビール》を止《や》めろのと勸《すゝめ》初《はじ》める。又《また》醫員《いゐん》のハヾトフも時々《とき/″\》來《き》ては、何故《なにゆゑ》かアルコール分子《ぶんし》の入《はひ》つてゐる飮物《のみもの》を止《よ》せ。ブローミウム加里《かり》を服《の》めと勸《すゝ》めて行《ゆ》くので。
 八|月《ぐわつ》にアンドレイ、エヒミチは市役所《しやくしよ》から、少《すこ》し相談《さうだん》が有《あ》るに由《よ》つて、出頭《しゆつとう》を願《ねが》ふと云《い》ふ招状《せうじやう》が有《あ》つた、で、定刻《ていこく》に市役所《しやくしよ》に行《い》つて見《み》ると、もう地方軍令部長《ちはうぐんれいぶちやう》を初《はじ》め、郡立學校視學官《ぐんりつがくかうしがくゝわん》市役所員《しやくしよゐん》、それにドクトル、ハヾトフ、又《また》も一人《ひとり》の見知《みし》らぬブロンヂンの男《をとこ》、ずらり[#「ずらり」に傍点]と並《なら》んで控《ひか》へてゐる。傍《そば》にゐた者《もの》は直《す》ぐに院長《ゐんちやう》に此《こ》の人間《にんげん》を紹介《せうかい》した、猶且《やはり》ドクトルで、何《なん》だとかと云《い》ふポーランドの云《い》ひ惡《にく》い名《な》、此《こ》の町《まち》から三十ヴエルスタ計《ばか》り隔《へだゝ》つてゐる、或《あ》る育馬所《いくばしよ》に居《ゐ》る者《もの》、今日《けふ》此《こ》の町《まち》を何《なに》かの用《よう》で些《ちよつ》と通掛《とほりかゝ》つたので、此《こ》の場所《ばしよ》へ立寄《たちよ》つたとのことで。
『えゝ只今《たゞいま》、足下《そくか》に御關係《ごくわんけい》の有《あ》る事柄《ことがら
前へ 次へ
全99ページ中66ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
瀬沼 夏葉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング