うつつをぬかす其の態

泥酔のアイヌを見れば我ながら
義憤も消えて憎しみの湧く

背広服生れて始めて着て見たり
カラーとやらは窮屈に覚ゆ

ネクタイを結ぶと覗くその顔を
鏡はやはりアイヌと云えり

我ながら山男なる面を撫で
鏡を伏せて苦笑するなり

洋服の姿になるも悲しけれ
あの世の母に見せられもせで

獰猛な面魂をよそにして
弱い淋しいアイヌの心

力ある兄の言葉に励まされ
涙に脆い父と別るる

コタンからコタンを巡るも楽しけれ
絵の旅 詩の旅 伝説の旅

暦無くとも鰊来るのを春とした
コタンの昔慕わしきかな

久々で熊がとれたが其の肉を
何年ぶりで食うたうまさよ

雨降りて静かな沢を炭竈の
白い烟が立ちのぼる見ゆ

戸むしろに紅葉散り来る風ありて
小屋いっぱいに烟まわれり

幽谷に風嘯いて黄紅葉が
苔踏んで行く我に降り来る

ひら/\と散った一葉に冷めたい
秋が生きてたコタンの夕

桂木の葉のない梢天を衝き
日高の山に冬は迫れる

楽んで家に帰れば淋しさが
漲って居る貧乏な為だ

めっきりと寒くなってもシャツはない
薄着の俺は又も風邪ひく

炭もなく石油さえなく米もなく
なって了っ
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