うつつをぬかす其の態
泥酔のアイヌを見れば我ながら
義憤も消えて憎しみの湧く
背広服生れて始めて着て見たり
カラーとやらは窮屈に覚ゆ
ネクタイを結ぶと覗くその顔を
鏡はやはりアイヌと云えり
我ながら山男なる面を撫で
鏡を伏せて苦笑するなり
洋服の姿になるも悲しけれ
あの世の母に見せられもせで
獰猛な面魂をよそにして
弱い淋しいアイヌの心
力ある兄の言葉に励まされ
涙に脆い父と別るる
コタンからコタンを巡るも楽しけれ
絵の旅 詩の旅 伝説の旅
暦無くとも鰊来るのを春とした
コタンの昔慕わしきかな
久々で熊がとれたが其の肉を
何年ぶりで食うたうまさよ
雨降りて静かな沢を炭竈の
白い烟が立ちのぼる見ゆ
戸むしろに紅葉散り来る風ありて
小屋いっぱいに烟まわれり
幽谷に風嘯いて黄紅葉が
苔踏んで行く我に降り来る
ひら/\と散った一葉に冷めたい
秋が生きてたコタンの夕
桂木の葉のない梢天を衝き
日高の山に冬は迫れる
楽んで家に帰れば淋しさが
漲って居る貧乏な為だ
めっきりと寒くなってもシャツはない
薄着の俺は又も風邪ひく
炭もなく石油さえなく米もなく
なって了っ
前へ
次へ
全11ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
違星 北斗 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング