たが仕事とてない
食う物も金もないのにくよ/\するな
俺の心はのん気なものだ
鰊場の雇になれば百円だ
金が欲しさに心も動く
感情と理性といつも喧嘩して
可笑しい様な俺の心だ
俺でなけや金にもならず名誉にも
ならぬ仕事を誰がやろうか
「アイヌ研究したら金になるか」と聞く人に
「金になるよ」とよく云ってやった
金儲けでなくては何もしないものと
きめてる人は俺を咎める
よっぽどの馬鹿でもなけりゃ歌なんか
詠まない様な心持不図する
何事か大きな仕事ありゃいゝな
淋しい事を忘れる様な
金ためたたゞそれだけの人間を
感心してるコタンの人々
馬鹿話の中にもいつか思うこと
ちょい/\出して口噤ぐかな
情ない事のみ多い人の世よ
泣いてよいのか笑ってよいのか
砂糖湯を呑んで不図思う東京の
美好野のあの汁粉と粟餅
甘党の私は今はたまに食う
お菓子につけて思う東京
支那蕎麦の立食をした東京の
去年の今頃楽しかったね
上京しようと一生懸命コクワ取る
売ったお金がどうも溜らぬ
生産的仕事が俺にあって欲しい
徒食するのは恥しいから
葉書さえ買う金なく本意ならず
御無沙汰をする俺の貧しさ
無くなったインクの瓶に水入れて
使って居るよ少し淡いが
大漁を告げようとゴメはやって来た
人の心もやっと落ち着く
ゴメは鴎[#「ゴメは鴎」は1段階小さな文字]
亦今年不漁だったら大へんだ
余市のアイヌ居られなくなる
今年こそ乗るかそるかの瀬戸際だ
鰊の漁を待ち構えてる
或る時はガッチャキ薬の行商人
今鰊場の漁夫で働く
今年こそ鰊の漁もあれかしと
見渡す沖に白鴎飛ぶ
東京の話で今日も暮れにけり
春浅くして鰊待つ間を
求めたる環境に活きて淋しさも
そのまゝ楽し涙も嬉し
人間の仲間をやめてあの様に
ゴメと一緒に飛んで行きたや
ゴメゴメと声高らかに歌う子も
歌わるるゴメも共に可愛や
カッコウと鳴く真似すればカッコウ鳥
カアカアコウとどまついて鳴く
迷児をカッコウカッコウと呼びながら
メノコの一念鳥になったと
メノコは女子[#「メノコは女子」は1段階小さな文字]
「親おもう心にまさる親心」と
カッコウ聞いて母は云ってた
バッケイやアカンベの花咲きました
シリバの山の雪は解けます
赤いものの魁だ! とばっかりに
アカンベの花真赤に咲いた
名の知れぬ花も咲いてた月見草も
雨の真昼に咲いてたコタン
賑かさに飢えて居た様な此の町は
旅芸人の三味に浮き立つ
酒故か無智な為かは知らねども
見せ物として出されるアイヌ
白老《しらおい》のアイヌはまたも見せ物に
博覧会へ行った 咄! 咄※[#感嘆符二つ、1−8−75]
白老は土人学校が名物で
アイヌの記事の種の出どころ
芸術の誇りも持たず宗教の
厳粛もないアイヌの見せ物
見せ物に出る様なアイヌ彼等こそ
亡びるものの名によりて死ね
聴けウタリー アイヌの中からアイヌをば
毒する者が出てもよいのか
山中のどんな淋しいコタンにも
酒の空瓶たんと見出した
淪落の姿に今は泣いて居る
アイヌ乞食にからかう子供
子供等にからかわれては泣いて居る
アイヌ乞食に顔をそむける
アイヌから偉人の出ない事よりも
一人の乞食出したが恥だ
アイヌには乞食ないのが特徴だ
それを出す様な世にはなったか
滅亡に瀕するアイヌ民族に
せめては生きよ俺の此の歌
ウタリーは何故滅び行く空想の
夢より覚めて泣いた一宵
単純な民族性を深刻に
マキリもて彫るアイヌの細工
アイヌには熊と角力を取る様な
者もあるだろ数の中には
悪辣で栄えるよりは正直で
亡びるアイヌ勝利者なるか
俺の前でアイヌの悪口言いかねて
どぎまぎしてる態の可笑しさ
うっかりとアイヌ嘲り俺の前
きまり悪気に言い直しする
アイヌと云う新しくよい概念を
内地の人に与えたく思う
誰一人知って呉れぬと思ったに
慰めくれる友の嬉しさ
夜もすがら久しかぶりに語らいて
友の思想の進みしを見る
淋しさを慰め合って湯の中に
浸れる友の赤い顔見る
カムチャッカの話しながら林檎一つを
二つに割りて仲よく食うた
母と子と言い争うて居る友は
病む事久し荒んだ心
それにまた遣瀬なかろう淋しかろう
可哀そうだよ肺を病む友
おとなしい惣次郎君銅鑼声で
「カムチャッカでなあ」と語り続ける
久々に荒い仕事をする俺の
てのひら一ぱい痛いまめ[#「まめ」に傍点]出た
働いて空腹に食う飯の味
ほんとにうまい三平汁吸う
骨折れる仕事も慣れて一升飯
けろりと食べる俺にたまげた
一升飯食える男になったよと
漁場の便り友に知らせる
此の頃の私の元気見てお呉れ
手首つかめば少し肥えたよ
仕事から仕事追い行く北海の
荒くれ男俺
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