もその一人
雪よ飛べ風よ刺せ何 北海の
男児の胆を錬るは此の時
ホロベツの浜のハマナシ咲き匂い
イサンの山の遠くかすめる
沙流《さる》川は昨日の雨で水濁り
コタンの昔囁きつ行く
平取《びらとり》はアイヌの旧都懐しみ
義経神社で尺八を吹く
尺八で追分節を吹き流し
平取橋の長きを渡る
崩御の報二日も経ってやっと聞く
此の山中のコタンの驚き
諒闇の正月なれば喪旗を吹く
風も力のなき如く見ゆ
勅題も今は悲しき極みなれ
昭和二年の淋しき正月
秋の夜の雨もる音に目をさまし
寝床片寄せ樽を置きけり
貧乏を芝居の様に思ったり
病気を歌に詠んで忘れる
一雨は淋しさを呼び一雨は
寒さ招くか蝦夷の九月は
尺八を吹けばコタンの子供達
珍しそうに聞いて居るなり
病よし悲しみ苦しみそれもよし
いっそ死んだがよしとも思う
若しも今病気で死んで了ったら
私はいゝが父に気の毒
恩師から慰められて涙ぐみ
そのまゝ拝む今日のお便り
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俳句
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浮氷鴎が乗って流れけり
春めいて何やら嬉し山の里
大漁の旗そのまゝに春の夜
春浅き鰊の浦や雪五尺
鰊舟の囲ほぐしや春浅し
尺八で追分吹くや夏の月
夏の月野風呂の中で砕けけり
蛙鳴くコタンは暮れて雨しきり
伝説の沼に淋しき蛙かな
偉いなと子供歌うや夏の月
新聞の広告も読む夜長かな
夜長さや二伸も書いて又一句
外国に雁見て思う故郷かな
雁落ちてあそこの森は暮れにけり
十一州はや訪れぬ初あられ
まず今日の日記に書かん初霰
雪除けや外で受け取る新聞紙
流れ水流れながらに凍りけり
塞翁の馬で今年も暮れにけり
雪空に星一つあり枯木立
枯葉みな地に抱れんとて地へ還る
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[#地付き]〔昭和二十九年版遺稿集より〕
底本:「北海道文学全集 第11巻」立風書房
1980(昭和55)年11月10日初版第1刷発行
底本の親本:「違星北斗遺稿集」違星北斗の会
1954(昭和29)年8月15日発行
入力:田中敬三
校正:土屋隆
2006年7月23日作成
青空文庫作成ファイル:
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