驢馬の びつこ
新美南吉
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)體《からだ》を
−−
張が かはいゝ 驢馬を 一匹 買ひました。ところが 歩かせて 見ると その 驢馬は びつこを ひくのです。
「なぜ びつこを ひくのだらう。」と 考へて 見ましたが わかりません。ちようど とほりかゝつた 物しりを よびとめて たづねて 見ると、物しりは、驢馬の 體《からだ》を よく しらべてから いひました。
「耳と 耳の 間に 錢ほどの 禿が ある、この 禿に 風が あたつて 寒いから びつこを ひくのぢや。帽子を つくつて かむせたが、よからう。」
やつぱり 物しりだけ あつて、利口な ことを いふと 張は かんしんしながら、羊の 毛で 圓い 帽子を つくりました。それを 驢馬の 頭に かむせて、さて 歩かせて 見ると やつぱり びつこを ひきます。張は 物しりに だまされたと 思つて、まつかに なつて 驢馬を ひつぱつて ゆきました。
「人を だますにも ほどが ある。お前さんの いふとほり 帽子を かむせたが やつぱり びつこを ひくでは ないか。」すると 物しりは おちついて、
「いや こんな 帽子では いかん、驢馬の 耳を おしこむので 耳が いたいのぢや。」と いふのでした。なるほどと 思つた 張は、家に かへつて 帽子に 二つの 穴を あけ、そこから 二つの 耳を 出して やりました。ところが 歩かせて 見れば やつぱり びつこを ひきます。又 おこつて 物しりの ところへ がなりこんで ゆくと、
「いや あれでは、耳が 寒いから いけない。」と いひます。なるほど さうだつたと 思つて、こんどは、二つの 耳に 長い 袋を かむせました。けれど びつこを ひくのは 前と 同じ ことです。いよいよ 物しりめ、わしを だましたなと 思つて、げんこつを ふりあげながら とびこんで ゆくと、物しりは、
「まちなさい、お前さん とんまだね、あれぢや 耳が 聞えないぢや ないか。」と いひます。たしかに さうだ、と、張は 家に かへりましたが、こんどは どう して いゝのか さつぱり わかりません。袋に 穴を あければ 風が はいつて 寒いでせうし――。
張は 十日も 二十日も ろくろく ご飯も たべず 考へましたが、よい 考へは うかびませ
次へ
全2ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
新美 南吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング