れたのに、わかい藤井先生は、いちいち、え、え、と聞きとがめられた。そんなことまで、春吉君の気にいった。もうなにからなにまで、この先生のすることはよかった。
藤井先生は、坂市君から順順にうしろへあてられた。四人めには、春吉君がひかえている。春吉君は、この小さい組の級長である。春吉君は、きりっとした声をはりあげて、朗々《ろうろう》と読み、未知のわかい先生に、じぶんが秀才であることをみとめてもらうつもりで、番のめぐってくるのを、いまやおそしと待っていた。
いよいよ春吉君の番だ。春吉君は、がたっとこしかけをうしろへのけ、直立不動のしせいをとり、読本《とくほん》を持った手を、思いきり顔から遠くへはなした。そして、大きくいきをすいこみ、いまや第一声をはなとうとしたとたん、つごうのわるいことが起こった。ちょうどそのとき、藤井先生は、机間巡視《きかんじゅんし》の歩を教室のうしろの方へ運んでいられたが、とつじょ、ひえっというような悲鳴をあげられ、鼻をしっかとおさえられた。
みんながどっとわらった。また、屁《へ》えこき虫の石が、例のくせを出したのである。
なんというときに、また、石太郎は屁をひった
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