ろから、子どもがほしい、女房《にょうぼう》はいらんが、といっていたのを天でおききとどけになって、さずけてくれたのじゃねえか」
 和太郎さんは、亀徳さんがいいことをいってくれたので、うれしそうな顔をしました。
 しかし次郎左《じろうざ》ェ門《もん》さんは、
 「そんなりくつにあわぬ話が、いまどきあるもんじゃねえ。子どもには両親がなけりゃならん」
といいました。
 また、芝田《しばた》さんはひげをいじりながら、
 「捨て子じゃろう。一ぺんあとから駐在所へつれてこい。調査書を書いて本署にとどけるから」
といいました。
 その後、和太郎さんは、赤ん坊の親たちがあらわれるのを待っていましたが、ついに、そんな人はあらわれませんでした。
 そこで、その子には和助《わすけ》という名をつけて、じぶんの子にしました。そして、一ぱいきげんのときにはいつもでも、
 「おらが和助は、天からさずかりものだ。おらと牛がよっぱらった晩《ばん》に、天からさずけてくださったのだ」
といいました。すると、りこうもんの次郎左ェ門さんは、
 「そんなりくつにあわん話がいまどきあるもんか。子どもにゃ両親がなきゃならん。よって歩い
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