がないので、
 「面目《めんもく》ないけンが、どうやら、そこへもいったらしいて。ばかにりっぱな座敷があってのう、それが、たたみもふすまも天じょうも、みんな黄色かったてや。そういえば、耳のぴんと立った太夫《たゆう》がひとりござって、胡弓《こきゅう》をじょうずにひいてきかしてくれたてや。じゃ、あれが、きつねだったのかィ」
 「それにしても、どうして、あんな急な山のてっぺんへ、牛車がのぼったもんだろう」
と、村びとはふしぎがりました。
 「なにしろ申しわけねえだな、牛もおれもよっておったで」
と、和太郎さんはあやまるのでした。
 さておしまいに、村びとたちにも、和太郎さんにもどうしてか、わけのわからぬことがひとつあったのです。
 それは、牛車の上にひとつの小さい籠《かご》がのっていて、その中に、花たばと、まるまるふとった男の赤ん坊がはいっていたことです。
 どこでどうして、この籠《かご》をのせられたのか和太郎さんはいくら思い出してみようとしても、むだ骨おりでありました。てんでおぼえがなかったのです。
 「天からさずかったのじゃあるめえか」と亀徳《かめとく》さんがいいました。「和太さんが、日ご
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