持っていきなさい」
と、和太郎さんはいいました。
 お嫁さんはたくさんのおみやげをかかえこんで、戸口を出ていいました。
 「それじゃ、いってまいります」
 「ああいけや」と和太郎さんはいいました。
 「そうして、もう、ここへこなくてもよいぞや」
 お嫁さんはびっくりしました。しかしいくらお嫁さんがびっくりしたところで、和太郎さんの心は、もうかわりませんでした。
 こうして、和太郎さんはお嫁さんとわかれてしまいました。
 そののち、あちこちから、お嫁さんの話はありましたが、和太郎さんはもうもらいませんでした。ときどき、もういっぺんもらってみようか、と思うこともありましたが、壁を見ると、「やっぱり、よそう」と、考えがかわるのでした。
 しかし、お嫁さんをもらわない和太郎さんは、ひとつ残念《ざんねん》なことがありました。それは子どもがないということです。
 おかあさんは年をとって、だんだん小さくなっていきます。和太郎さんも、今は男ざかりですが、やがておじいさんになってしまうのです。牛もそのうちには、もっとしりがやせ、あばら骨がろくぼく[#「ろくぼく」に傍点]のようにあらわれ、ついには死ぬのです。そうすると、和太郎さんの家はほろびてしまいます。
 お嫁さんはいらないが、子どもがほしい、とよく和太郎さんは考えるのでありました。

       三

 人間はほかの人間からお世話になるとお礼をします。けれど、牛や馬からお世話になったときには、あまりいたしません。お礼をしなくても、牛や馬は、べつだん文句《もんく》をいわないからであります。だが、これは不公平な、いけないやり方である、と和太郎さんは思っていました。なにか、よぼよぼの牛のたいそう喜ぶようなことをして、日ごろお世話になっているお礼にしたいものだ、と考えていました。
 すると、そういうよいおりがやってきました。
 百姓《ひゃくしょう》ばかりの村には、ほんとうに平和な、金色《こんじき》の夕ぐれをめぐまれることがありますが、それは、そんな春の夕ぐれでありました。出そろって、山羊《やぎ》小屋の窓をかくしている大麦の穂の上に、やわらかに夕日の光が流れておりました。
 和太郎さんは、よぼよぼ牛に車をひかせて、町へいくとちゅうでした。
 和太郎さんは、いつもきげんがいいのですが、きょうはまたいちだんとはれやかな顔をしていました。酒《さ
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