るのです」
と、お嫁さんはまたいうのでした。
 「だが、おかあさんは、稲でついて目をつぶしたのだぞや。そんなにして、わしをそだててくれたのだぞや」
 「でも、わたしは、あのつぶれた目を見ていては、ご飯がのどを通りません」
 和太郎さんはおかあさんとふたりきりになったとき、おかあさんに話しました。
 「おチヨは、おかあさんのつぶれたほうの目を見ていると、気持ちがわるくて、ご飯がのどを通らんそうです」
 それを聞くと、年とったおかあさんは、豆をたたくのをやめて、しばらく悲しげな顔をしていました。そしていいました。
 「そりゃ、もっともじゃ。こんなかたわを見ていちゃ、若いものには気持ちがよくあるまい。わしはまえから、嫁ごがきたら、おまえたちのじゃまにならぬように、どこかへ奉公に出ようと思っていたのだよ。それじゃ、あしたから桝半《ますはん》さんのところへ奉公にいこう。あそこじゃ飯たきばあさんがほしいそうだから」
 つぎの日、年とったおかあさんは、すこしの荷物をふろしき包みにして、日ざかりにこうもりがさをさして家を出ていきました。門先《かどさき》のもえるようにさきさかっているつつじのあいだを通って、いってしまいました。
 畑の垣根《かきね》をなおしながら、和太郎さんは、おかあさんを見送っていました。おかあさんが見えなくなると、つつじの赤が、和太郎さんの目にしみました。
 和太郎さんはなけてきました。こんな年とったおかあさんを、今また奉公させに、よその家にやってよいものでしょうか。せっせと働いて、苦労をしつづけて、ひとり息子《むすこ》の和太郎さんをそだててくれたおかあさんを。
 和太郎さんは縄《なわ》きれを持ったまま、とんでいって、おかあさんの手をつかむと、だまってぐんぐん家へひっぱってきました。
 「おい、おい、おチヨ」
と、和太郎さんはよびました。
 お嫁さんは台所から、手をふきながら、出てきました。
 「おまえは、近いうちにさと[#「さと」に傍点]へいっぺん帰りたい用があるといっていたな」
 「はい」
 「それじゃ、きょう、いまからいきなさい」
 お嫁さんは、じぶんの生まれた家に久しぶりに帰ることができるので、うれしくてたまりませんでした。さっそくよい着物にかえました。
 「さとには、たけのこ[#「たけのこ」に傍点]がなかったな。たけのこを持っていきなさい。ふきもたくさん
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