れ、おしろいの実よ、おかあさん。
母   どうして、そんなものがはいってたの。
長女  おしろいの実をしまっとくとね、色が白くなるんだって、みんながいうんですよ。
母   おやおや。
長女  それから美しくなって、みんながお嫁《よめ》さんにもらいにくるんだって。
母   あきれた子だね。
次男  あんなこと、うそだね、かあさん。鯉《こい》ちゃんとこのねえさんはね、まえだれにいっぱいあつめてったけど、ちっとも白くならないね。いまでもまっ黒だ。
母   どこでそんなに、おしろいの実をとるの。
長男  めくらのおじいさんの庭から、とってくるんですよ。おばあさんがいるときはね、火箸《ひばし》を持って追っぱらうもんだからね、ばあさんがいないときに、女の子たちは、とりにいくんです。
長女  あら、あたしはそうじゃなくってよ。あたしは、おキンちゃんのとこでいただいたのですよ。
長男  あや子のこといってやしないよ。他の子のことだよ。そうするとね、かあさん、おじいさんは目が見えないでしょう。だからみんなが、おしろいの実をとっても知らないで、犬が庭にはいったかなって、いってるんですよ。
長女  あたしは
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