。
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(はやしの音|止《や》む)
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長女 あら、もう塩屋さんとこのまえまできたわ。あそこのしいの木の下で休むのよ。
三男 …………
長女 (心細くなって)かあさんもう帰ってらっしゃらないかしら。よし坊ちゃん、ねむくない? すこし風が出てきたわね。障子《しょうじ》しめましょうか?
三男 しめなくてもいいや。
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(このあたりから病気の子の声、とみに衰える)
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長女 でも、あたしなんだか寒いわ。裏のやぶがさわいでるわ。
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(はやしの音、再びはじまる。そしてだんだん遠ざかっていく)
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長女 あら、もう帰っていくのね。
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(間)
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長女 よし坊ちゃん。
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(間)
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長女 よし坊ちゃん。
三男 まだきこえるね、ねえちゃん。
長女 ええ、まだきこえるわ。もうじき、土塀《どべい》の家の角《かど》をまがると、きこえなくなるわ。ほら、もうきこえなくなったでしょう。
三男 まだきこえるよ。
長女 でももう蚊《か》が鳴くほどだけよ。
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(間)
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長女 もうなんにもきこえなくなってよ。こんどは、村のあっちのはしへいくのだわね。
三男 まだきこえるよ。
長女 あんたの耳の中に笛の音が残ってるんだわ。
三男 まだきこえるよ。
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(間)
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長女 なにをそんなにあたしの顔見てるの。いやよ、よし坊ちゃん。
三男 もうせん、ねえちゃんと花のかくしっこしたろう。
長女 いつのこと?
三男 ぼくが病気になるまえにしたよ。貝がらでふせて土の下にかくしたじゃないか。
長女 あ、そうね。あんときよし坊ちゃんがかくしてきたの、あたしいくらさがしても見つけなかったわね。そして、よし坊ちゃんが、あの日の夕方から病気になったから、あれきりになったんだわ。どこへかくしといたの?
三男 裏のきんかん[#「きんかん」に傍点]の木の下だよ。
長女 あら、よし坊ちゃんずるいわ。かけひ[#「かけひ」に傍点]の向こうはやぶだから、いけないってきめてあったじゃないの。ずるいわ、よし坊ちゃんたら。
三男 まだあるかなあ。
長女 あんなとこだれもほらなくてよ。あたし見てこようか。
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(女の子裏口から出ていく。やがて貝のからを持って帰ってくる)
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長女 あったわ。かけひ[#「かけひ」に傍点]で洗ってきてよ。
三男 花はあった?
長女 しなびてたわ。
三男 しなびてた?
長女 しなびるわよ、冬を越したんですもの。
三男 ぼくのかばんのお弁当入れるところにね、もうひとつ貝があるから持ってきて。
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(女の子さがして持ってくる)
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三男 それ合わせてごらんよ。うまく合う?
長女 うまく合うわ。ほら、ちょうどてのひらを合わせたみたい。
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(それを病気の子に渡す)
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三男 まだ鳴るかなあ。
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(口にふくんで弱々しくふく。鳴らない)
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長女 土の中にあった間に、どこかきっと欠けたのよ。
三男 鳴るよ。……じっときいてると、いっぱいになるよ。……風の音や笛の音がするよ。……たくさんの音がするよ。どこか遠くの方へ消えていくよ。
長女 うそよ。なにもきこえやしないわ。
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(病気の子、貝をくわえたまま耳をすましている。間)
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三男 ねえちゃん、……ぼくなんだか軽くなった。あ、ぼくもとんでくよ。風の音や笛の音の中をいっしょに……おかあちゃん……ああ、ぼくもとんでくの……。
長女 なにいってるの、よし坊ちゃん。あんた、どこ見てんの。
三男 花びらや笛の音といっしょに流
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