てきましょうね。
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(母親裏口から去る)
(花火の音)
[#ここで字下げ終わり]
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三男  いまの花火、きっと旗が出たよ。
長女  見てきましょうか。
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(長女|縁側《えんがわ》に出て空をあおぐ)
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長女  あら、ほんとうに旗が出たわ。雲の下を、北の方へ流れていくわ。……ああいま、学校のうしろの山の上ころよ。あら、山のてっぺんで、だれかが旗の方に手をふっててよ、……もう見えなくなっちゃった。
三男  山の上にだれがいるの?
長女  だれだかわからないわ。
三男  先生じゃないの。
長女  見えやしないわ、そんなことまで。
三男  だめだなあ、おねえさんの目なんか。
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(女の子、枕もとにすわる)
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[#ここから改行天付き、折り返して3字下げ]
三男  旗は、どこまでとんでくかなあ。
長女  やた村に、きっと落ちるわ。
三男  やた村で落ちないで、もっとどんどんとんでったらどこへいくんだろう。
長女  知らないわ、そんなこと。
三男  どっかの黒い海にいくよ。
長女  そうかしら。
三男  だめだなあ、おねえさんなんか。なんにも知らないや。
長女  知ってるわ、あたしだって。
三男  知らないや。
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(沈黙。すぐ近くでひばりが鳴きはじめる)
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三男  くに[#「くに」に傍点]ちゃんとこでもらった雛《ひな》を持っておいでよ。
長女  どうするの? よし坊ちゃんがねてる間に、もう餌《え》をやっといたわよ。
三男  もってこいよ。
長女  もってきてどうするのさ。にいさんたちに見つかると、とりあげられちまうわよ。
三男  にいちゃんたち、祭にいってら、ばか。
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(女の子、裏口から出ていって、すぐボール箱《ばこ》を持ってはいってくる)
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三男  箱《はこ》から出して、ぼくの手にのせてくれよ。
長女  だめよ、そんなことしちゃ。まだ弱いんだから、手にとったら死んでしまうわよ。
三男  いいんだったら。
長女  いやよ。あたしがくに[#「くに」に傍点]ちゃんとこのおじさんにいただいてきたのよ。この雛《ひな》は。
三男  だって、ぼくとふたりでだいじにしろっていったって、ねえさん、ぼくにいったじゃないか。
長女  …………
三男  ぼく、手にのせて見たいんだよ。
長女  あれ、うそよ。
三男  なんだい、うそなことあるもんか。くに[#「くに」に傍点]ちゃんとこのおじさん、ぼくとなかよしなんだもの。
長女  いいえ。うそよ。あたし、よし坊ちゃんを喜ばしてやろうと思って、うそいったのよ。ほんとうは、あたしだけにくれたんだわ。
三男  なんだい、ねえさんのうそつき。そんなら、そんなもの、殺しちゃうぞ。
長女  いやだわ、いやだわ。
三男  よこせ、よこせってば。
長女  よし坊ちゃん、いやよ、そんな顔しちゃ。
三男  よこせってば。ねえさんばか。あや子ばか。よこせってば。
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(女の子、策つきて箱から雛《ひな》をとり出して病気の子に渡す)
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して3字下げ]
長女  ね、お願いだから、殺さないでね……あっ、いけないわ、そんなににぎっちゃあ……こわいもんだから、足がぶるぶるふるえてるわ……もうはなして……よし坊ちゃん……もうはなしてよ、よし坊ちゃん……。
三男  ぼくの手にふるえが伝わってくるよ。軽いなあ。
長女  かあいそうだわ。足をもがいてるわ。そんなに持ってると、びっくらして死んじまうことよ。
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(病気の子そっと雛をもったまま、長く見ている)
(女の子安心する)
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[#ここから改行天付き、折り返して3字下げ]
長女  毛、やわらかいでしょ。

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病気の子、だまって雛をかえす。
女の子箱にしまって、裏口から出ていく。
はやしの音が近づいてくる。
微風《びふう》の中から桜の花びらが病気の子のわきに落ちる。病気の子は動かない。
女の子入ってくる。
[#ここで字下げ終わり]

[#ここから改行天付き、折り返して3字下げ]
長女  おはやしがこっちへやってくるかね。
三男  塩屋さんとこまでくるきりだい。あそこからまた帰ってしまうんだ。
長女  あの太鼓《たいこ》ね、おキンちゃんとこのにいさんがたたいてるのよ。今年《ことし》はじめてだって
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