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(女の子うなずく)
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母 せっかくあそこまでいって、帰ってくることなんかないじゃないの。あそこからもうじき、お宮さんじゃありませんか。あとでいけばよかったって、知りませんよ。
長女 いいのよ、おかあさん。
母 それじゃあ、そんなとこに立ってないで、こっちへいらっしゃい。(病気の子どもに)よし坊はもうお薬を飲まなきゃいけませんね、まだあったかしら。おや、もうから[#「から」に傍点]ですね。それじゃあ、かあさんがお薬をとってきますから、よし坊ちゃんはねえさんと遊んでるね。
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(長女あがってきて、よし坊の枕《まくら》もとにすわる。母、用意をする)
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三男 かあさん、近道していくといいよ。
母 近道って? おまえお医者さんのお家へいく近道知ってるの?
三男 井戸車のある家と、めくらのじいさんのお家の間をとおっていくとね、杉《すぎ》の垣根《かきね》にあながあいてるからね、そこをくぐると、お医者さんちの裏だよ。垣根をくぐったときにね、頭に気をつけないと、物置からさがってる樋《とい》にぶつかるよ。
母 あきれた子だね。そんなとこをくぐって遊んだのかい。おかあさんは、そんなところはとおれませんよ。
三男 あそこからいくと、とても早いや。
長女 あそこはもうとおれないのよ。井戸車のお家とめくらのじいさんちの間に、からたちの垣根を結んじまったから。よし坊ちゃんはもう長い間見ないから、知らないんだわ。
母 ではいってきますよ。
三男 かあさん、お医者さん家のかどんとこで、去年の綿砂糖《わたざとう》のおじいさんが売ってたら、買ってきてね。
母 綿砂糖って?
三男 綿みたいになった砂糖だよ。
母 そんなものを、おまえはたべちゃいけないんですよ。かあさんが、卵を買ってきておいしく煮《に》てあげるからね。
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(病気の子、このあたりから力が衰える)
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三男 卵なんて、しょっちゅうたべてるんだもの、いやだい。
母 じゃ、お医者さまにきいてみて、たべていいっておっしゃったら、買っ
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