きながら歩き出しましたが、朝顔の葉にとまって、ふたりの話をきいてる赤とんぼを見つけると、右手を大きくグルーッと一回まわしました。
 妙《みょう》な事をするな――と思って、赤とんぼはその指先を見ていました。
 つづけて、グルグルと書生さんは右手をまわします。そして、だんだん、その円を小さくして赤とんぼに近づいて来ます。
 赤とんぼは、大きな眼《め》をギョロギョロ動かして、書生さんの指先をみつめています。
 だんだん、円は小さく近く、そして早くまわって来ます。
 赤とんぼは、眼《め》まいをしてしまいました。
 つぎの瞬間《しゅんかん》、赤とんぼは、書生《しょせい》さんの大きな指にはさまれていました。
「おじょうさん、赤とんぼをつかまえましたよ。あげましょうか?」
「ばか! あたしの赤とんぼをつかまえたりなんかして――山田のばか!」
 おじょうちゃんは、口をとがらして、湯《ゆ》を書生さんにぶっ[#「ぶっ」に傍点]かけました。
 書生さんは、赤とんぼをはなして逃《に》げて行きました。
 赤とんぼは、ホッとして空へ飛び上がりました。良いおじょうちゃんだな、と思いながら――

 空は真青《まっさお
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