どうするの」
と、正坊がたずねますと、団長はさびしそうにわらって、
「なんにもなくって家を出たんだから、なんにもなくって家へかえるんだよ」
と、いいました。団長は、町の警察にたのんで、正坊とお千代さんを、メリヤス工場へすみこませてもらいました。

       五

 クロは町の動物園にかわれるようになってからは、まい日、力のない目で、青い空のほうばかりを見あげていました。正坊やお千代さんはどうしているんだろうなあ、もういちどあって、あの「ゆうかんなる水兵」の曲がききたいなあと、そんなことを思いつづけてでもいるようなかっこうでした。
 おりの前には、まい日、いろんなきものをきたいろんな子どもたちが、立ちふさがりました。クロは、正坊やお千代さんが、もしかきているかもしれないと思って見まわしました。それは正坊だったら、赤と白のダンダラ服をきているから、すぐわかると思ったからでした。ゆめのように、ぼんやりそんなことを思いつづけているとき、すぐ鼻のさきで「クロ」とよぶ、ききなれた声がひびきました。クロはものうい目をあげて、声のするほうをのぞきました。
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ウウウウ、ウウウ、
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