仔牛
新美南吉

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)なの花|畑《ばたけ》の

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)なの花|畑《ばたけ》の

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)羽でも なく、鹿の[#「なく、鹿の」は底本では「なく、 鹿の」]
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 仔牛が ある 日 お父さん牛と お母さん牛の ところへ いつて、
「父ちやん 母ちやん、あたい 體の 中が むぢゆむぢゆすんの。」と いひました。お父さん牛も お母さん牛も すつかり よろこんで よだれを たらしました。そして お母さん牛が いひました。
「坊や その むづむづするのはね、今に 坊やの 體から 何かゞ 生えて くるのよ、さあ それでは、あの 丘の 南の なの花|畑《ばたけ》の 中へ はいつて、ぢつと すはつて ゐなさい、何か 生えて くるまで 待つて ゐなさいね。」と いひきかせて、仔牛を 一人きり 送つて やりました。
 仔牛が いつて しまふと お母さん牛は むねを おどらせながら お父さん牛に いひました。
「ね、あの 仔は 世界中で 一番 美しい 仔牛だから、今に きつと 肩の 下から、いつか ほら 丘の ふもとで 池の 上に うかんでた あの 白鳥のやうな 美しい 白い 羽が 二つ 生えますよ。」けれど お父さん牛は 大きな 顏を 横に ふりました。
「なにを 馬鹿な。けものに 羽など 生えるもんか。けものに 生える ものは 角に きまつてる。だが あれは、なかなか 勇ましい やつだ。だから きつと 鹿の 角みたいに りつぱな、枝の ある 角が できるだらう。」
「おゝ いやだ、あんな みつともない もの。あんな いやな ものが あの かはいゝ 仔に 生える ものですか。きつと 羽が 生えます。もし あの 仔に 羽が 生えないなら わたし、この しつぽを あげても よろしいわ。」
「そんな へんてこな しつぽなんか いらないよ、繩つきれの 方が よつぽど ましだ。お前が さう いふなら わしは かう いふ。もし あれに 鹿の 角が 生えないなら、わしは わしの ひづめを やらう。」すると お母さん牛は 大きな 顏を できるだけ しかめて、
「そんな ひづめより 道ばたに おつこつて ゐる お椀の かけらの 方が ましですわ。」と
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