はかわいそうだから、夜になったら、町まで行って、坊《ぼう》やのお手々にあうような毛糸の手袋を買ってやろうと思いました。
 暗い暗い夜が風呂敷《ふろしき》のような影をひろげて野原や森を包みにやって来ましたが、雪はあまり白いので、包んでも包んでも白く浮びあがっていました。
 親子の銀狐は洞穴から出ました。子供の方はお母さんのお腹《なか》の下へはいりこんで、そこからまんまるな眼をぱちぱちさせながら、あっちやこっちを見ながら歩いて行きました。
 やがて、行手《ゆくて》にぽっつりあかりが一つ見え始めました。それを子供の狐が見つけて、
「母ちゃん、お星さまは、あんな低いところにも落ちてるのねえ」とききました。
「あれはお星さまじゃないのよ」と言って、その時母さん狐の足はすくんでしまいました。
「あれは町の灯《ひ》なんだよ」
 その町の灯を見た時、母さん狐は、ある時町へお友達と出かけて行って、とんだめにあったことを思出《おもいだ》しました。およしなさいっていうのもきかないで、お友達の狐が、或《あ》る家の家鴨《あひる》を盗もうとしたので、お百姓《ひゃくしょう》に見つかって、さんざ追いまくられて、命から
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