と思ったのでした。
子供の狐は遊びに行きました。真綿《まわた》のように柔《やわら》かい雪の上を駈《か》け廻《まわ》ると、雪の粉《こ》が、しぶきのように飛び散って小さい虹《にじ》がすっと映るのでした。
すると突然、うしろで、
「どたどた、ざーっ」と物凄《ものすご》い音がして、パン粉のような粉雪《こなゆき》が、ふわーっと子狐におっかぶさって来ました。子狐はびっくりして、雪の中にころがるようにして十|米《メートル》も向こうへ逃げました。何だろうと思ってふり返って見ましたが何もいませんでした。それは樅《もみ》の枝から雪がなだれ落ちたのでした。まだ枝と枝の間から白い絹糸のように雪がこぼれていました。
間もなく洞穴へ帰って来た子狐は、
「お母ちゃん、お手々が冷たい、お手々がちんちんする」と言って、濡《ぬ》れて牡丹色《ぼたんいろ》になった両手を母さん狐の前にさしだしました。母さん狐は、その手に、は――っと息をふっかけて、ぬくとい母さんの手でやんわり包んでやりながら、
「もうすぐ暖《あたたか》くなるよ、雪をさわると、すぐ暖くなるもんだよ」といいましたが、かあいい坊やの手に霜焼《しもやけ》ができて
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