った。朝から大分の道のりを歩いたので腹が空《す》いていたが、弁当《べんとう》を使う場所がなかなか見つからなかった。もう少しゆくと空地《あきち》があったから行こうと松次郎が言うので、ついて行って見るとそこには木の香《か》も新しい立派な家が立っていたりした。
腹がへっては勝《かち》はとれぬから、もう仕方がない、横丁《よこちょう》にでもはいって家のかげで食べようと話をきめたとき、二人は大きい門構《もんがま》えの家の前を通りかかった。そこには立派な門松《かどまつ》が立ててあり、門の片方の柱には、味噌《みそ》溜《たまり》と大きく書かれた木の札《ふだ》がかかっていた。黒い板塀《いたべい》で囲まれた屋敷は広くて、倉のようなものが三つもあった。
「あ、ここだ、ここは去年五銭くれたぞ」と松次郎がいった。で二人は、そこをもう一軒すましてから弁当をとることにした。
木之助が先になってはいってゆくと、
「う、う、う……」と低く唸《うな》る声がした。木之助はぎくりとした。犬が大嫌《だいきら》いだったのだ。
「松つあん、さきいってくれや」と松次郎に嘆願すると、
「胡弓がさきにはいってかにゃ、出来んじゃねえか」
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